Ⅰ)子供の咳
子供が咳をし始めると、“風邪をひいたのかな”或いは“
アレルギーが始まったのかな”等と思います。
咳は気道に何らかのトラブルが発生した時にでてきます。
まず気道に異物(ウイルス、細菌、ホコリ等)が
入り込もうとした時、これを排除する為に咳がでます。
また、肺や気道に炎症が起きると、炎症は抑えられ修復が
始まります。咳はこの過程でできる「痰」を除き
気道を元の状態に戻してくれます。
子供が咳をするのを聞いていると辛いのですが、咳が
でるのはそれなりの理由があるのです。
Ⅱ)咳のでる子供の病気
咳は以下のような病気の時に認められます。
1)ウイルスによる上気道炎(=かぜ)
2)喘息や咳喘息
3)アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎
鼻水がのどに流れて(=後鼻漏)咳がでます。
4)クループ症候群
喉の奥(喉頭蓋付近)の炎症があり、乾いた
咳がでます。
頻度は少ないのですが、注意が必要な咳のでる病気として
肺炎、結核、百日咳、異物誤飲、喉頭蓋炎等があります。
百日咳はワクチン(4種混合ワクチンの1つです)が生後
3ヵ月に始まるので、最近は滅多に発生していません。
しかしワクチンを完了していない乳幼児の場合、百日咳菌に感染する事があります。適切に診断,治療しなければ
生命が脅かされる事もあります。
Ⅲ)警戒すべき症状
熱がなく、軽い咳で、機嫌が良く、食欲、睡眠が正常なら、
2~3日は経過を見ても構いません。
しかし以下のような場合は要注意なので必ず受診して
ください。
1)チアノーゼ(皮膚の色が青白くなる)或いは顔色が悪い時
2)キューキュー、ゼーゼーとい呼吸音が聞こえる時
3)全身を使って苦しそうに呼吸をしている時
4)コントロールできない位、激しい咳発作がある時
5)重症感(ぐったりしていて、元気がない時)の有る時
6)声が出ない、或いは声枯れを伴う咳をする時
医師は咳のでているお子さんが来院したら、以下のような問診をします。
1)咳をするのは1日の中でいつですか?
どのようなどのような時に 咳が でやすいですか?
2)咳はどのような音がしますか?犬が吠えるような
咳ですか?
3)咳をする時、痰がでますか?
尚、痰を吐き出す咳は「湿った咳」と呼ばれ、
何も吐き出さない咳は「乾いた咳」と呼ばれます。
4 ) 咳には発熱を伴いますか?
5)咳は急に始まりましたか? 徐々に始まりましたか?
これらの問診に対する答えは、アレルギー性鼻炎、
副鼻腔炎、喘息、クループ症候群、肺炎、異物誤飲、
百日咳等鑑別診断に役立ちます。
Ⅳ)検査
a)聴診
小児の咳の原因疾患を考える上で聴診は非常に
大事です。
喘息の場合は呼気音(息を吐く音)がキュー
キューとか ゼ-ゼーと 聴こえます。
クループの場合は吸気音(=息を吸う音)が
ゼーゼーとなります。
乳幼児のアレルギー性鼻炎あるいは副鼻腔炎の場合,
ゼーゼーや ゴロゴロと言う呼吸音が聞こえる
事があります。
これは喉に落ちた鼻水の音で、喘息や気管支炎
の時聴こえるゼーゼーと紛らわしいが事が
あります。
b)パルスオキシメーター
喘息やクループで呼吸がゼーゼーしたり 苦しそうな
咳をする場合パルスオキシメーターで調べると 低酸素
症になっているかどうか客観的に知ることができます。
正常値は97~98%です。94 ~95%になるとかなり苦し
いので気管拡張剤の吸入、或いは、ステロイドの点滴が
必要です。92%以下だと直ちに、酸素投与、ステロイド
薬の点滴、吸入等行い改善しなければ入院治療が必要
です。
c)血液検査、ウイルス検査
発熱を伴う咳のある小児の場合、感染の重症度を
知るために
血液検査を行います。
血球数とCRP値を調べると、これがウイルス感染
による発熱なのか細菌感染による発熱なのか
推定できます。
まだ一部の病原体しかできないのですが、
迅速検査で RSウイルス,
マイコプラズマ、ヒトメタニューモウイルス、
新型コロナウイルス等に罹っているかどうか
知ることができます。
d)胸部レントゲン、CT検査
咳の原因を知るもう一つの検査法に胸部X線写真、
CT検査があります。肺炎,喘息の診断に有効です。
Ⅴ)治療
咳を軽くするには原因疾患を治療するのが基本です。
アレルギー性鼻炎や後鼻漏による咳に対しては
抗アレルギー剤、去痰剤等が用いられます。
細菌性肺炎の治療には抗菌剤が必要です。
ウイルス性上気道炎に対しては、気管支拡張薬と
去痰剤で対処します。
喘息の治療に一番効果的なのは、ステロイド吸入薬です。
抗アレルギー剤、気管支拡張剤を併用し重症になれば
酸素投与→入院等が必要となります。
クループ症候群の治療はボスミン、ステロイド等の投与
を行いますが重症なばあいは酸素投与→入院が必要です。
今迄述べたように、咳には気道への異物の侵入を防ぎ、
又炎症後に産生された分泌物を除去するという大事な働き
があります。原因疾患の適切な治療を行えば、鎮咳剤を
用いなくとも咳は自然に治まります。